大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鹿児島地方裁判所 昭和37年(ワ)345号 判決 1967年7月17日

原告 田村時義

右訴訟代理人弁護士 砂山耕淵

被告 国

右代表者法務大臣 田中伊三次

右指定代理人 島村芳見

<ほか七名>

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立て)

一  原告

「被告は原告に対し杉立木八五八・八立方メートルを引渡せ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

二  被告

主文同旨の判決を求めた。

(請求原因)

一  訴外鹿児島県地方木材株式会社または、同鹿児島県木材組合連合会を買主、被告国(農林省林野庁熊本営林局鹿屋営林署)を売主として、鹿児島県肝属郡高山町落平国有林五九班内所在の左表掲記物件(山床丸太)について左表数量、売買代金で売買契約が締結されたところ、原告はその都度これら買主からそれぞれ右売買契約上の一切の権利関係を含む買主たる地位の譲渡を受け、右譲渡についてはいずれも左表下欄に記載のとおり被告の権限ある行政機関(鹿屋営林署長または担当課長による)の承諾をえた(ちなみに、原告は被告に対し右売買代金を支払った。)。

鹿児島県地方木材株式会社(イ、ロ、ハ)および

鹿児島県木材組合連合会と被告との売買契約

原告が上記会社および連合会の地位を承継した日

被告の承諾のあった日(承継した日から)

昭和年月日

物件(数量)

売買代金

二一、三、七

杉丸太 四、四六四本

(一五一四・四八石)

三万四、〇〇〇円

二一、三、七

ニ週間内

二一、三、七

杉丸太 五、八三七本

(一九五五石)

一万七、九〇三円

二一、四、二

二週間内

二一、四、二

杉丸太 四、四七八本

(一三四八・六七石)

一万三、八八〇円

二一、四、二

二週間内

二一、一〇、一九

杉丸太 三、五七七

(一〇一八・四石)

一万九二六円

二一、四、二

二週間内

二二、三、七

杉丸太 一三、八〇九本

(四二六四・三五石)

六万二、七〇八円

二二、三、二

二週間内

二  原告は被告から右物件合計杉丸太三二、一六五本(一〇、一〇〇・九石)のうち、六、九八一・九七石の引渡を受けたが、被告はその余の杉丸太三、一一八・九三石を引渡さない。

三  前記売買契約は、不特定物のいわゆる種類債権であり、いまだその完全な履行を受けていないので原告は被告に対し右売買契約に基ずき不足数量のうち杉立木八五八・八立方メートル(杉丸太三、〇八五・九三石を換算したもの)の給付を求める。

(被告の答弁および抗弁)

一  答弁

請求原因一の事実中、鹿児島県地方木材株式会社および鹿児島県木材組合連合会を買主、被告を売主として原告の主張する国有林所在の杉丸太について売買契約がなされたことは認める。しかし、右契約の日時、数量、売買代金およびその他の事実はすべて否認する。原告は右売買が不特定物の売買であると主張するが、右売買はいずれもいわゆる山床処分に属し、本件の場合鹿児島県肝属郡高山町字落平国有林五九林班所在の杉立木を被告において在積調査し、更に伐採玉切りにしたうえでその本数、石数を調査したうえ、それを基にして金額が定められ、払下引渡を終えたものであるから、もとよりこれは特定物の売買とみるべきである。従って、その引渡をなした以上被告は原告の不足額引渡の請求に応ずる義務はない。

同二および三の事実は争う。

二  抗弁

1  仮に原告の主張するとおり右各売買が不特定物の売買であるとしても、いずれの場合も鹿屋営林署係官が現地に赴いて伐木に極印をし、引渡書に原告の印鑑を押捺してもらって現実に引渡を終っている。

2  仮に右引渡の事実が認められないとしても、原告の本訴提起のときは、既に原告が最後に引渡を受けた日の翌日である昭和二二年三月八日から一〇年を経過しているから、原告の本件杉立木の引渡請求権は昭和三二年三月八日にはすでに時効によって消滅しており、被告は昭和三九年四月一三日の本件口頭弁論において右時効を援用した。

(被告の抗弁に対する原告の答弁および再抗弁)

一  答弁

抗弁1、2の事実はいずれも否認する。

二  再抗弁

被告は昭和二四年七月中頃原告に対しその債務を承認し、右不足分の一部内入れとして素材四三九石を引渡したほか、昭和三〇年一二月頃前同様の趣旨で松立木一〇〇石(杉に換算して三三石)を引渡したので消滅時効はその際中断された。

(原告の再抗弁に対する被告の答弁)

再抗弁事実は否認する。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一  訴外鹿児島県地方木材株式会社および同鹿児島県木材組合連合会を買主、被告(熊本営林局鹿屋営林署長)を売主とし、鹿児島県肝属郡高山町落平国有林五九班内所在の山床丸太を目的として売買契約(日時、数量、売買代金の点を除く。)が結ばれたことは当事者間に争がない。

二  そこで右売買契約が結ばれた日時、数量、売買代金の点について判断すると、≪証拠省略≫によれば、鹿児島県地方木材株式会社を買主として左表掲記イ、ロおよびハ記載の、鹿児島県木材組合連合会を買主として同表ニおよびホ記載の各売買契約が締結された事実が認められる。

①取引年月日

(昭和)

②引渡場所

③樹種材積

④品等

⑤数量(本)

⑥材積(石)

⑦単価(円)

⑧金額(円)

二一、三、七

落平国有林五九ろはほ六〇い山床

杉丸太

二―三

四、四六四

一、五一四・四八

二二・四五

三万四、〇〇三

二一、四、二

落平国有林五九林班山床

五、八三七

一、九五五

九・一六

一万七、五〇三

四、四七八

一、三四八・六七

一〇・二九

一万三、八八〇

二一、一〇、一九

同林班ほ内山床

三、五七七

一、〇一八・四〇

一〇・七三

一万九二六

二二、三、七

一―込

一万三、一四二

三、八一二・三八

一四・四七

五万五、一五五

クロマツ丸太

六六七

四五一・九七

一六・七一

七、五五三

三  次に原告が右各売買契約上の買主としての地位を引受けたとの主張について判断する。

(一)  ≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実が認められる。すなわち

(イ)  右売買契約の締結当時はいわゆる木材統制法の時代で鹿屋営林署関係の国有林の払下げについても、業者個人を相手方としえず木材業者、製材業者らを社員とする鹿児島県地方木材株式会社、その解散後は鹿児島県木材組合連合会を払下げの相手方とすべきものとされ、その後の処分は右会社と関係木材業者または製材業者との間の取引に委ねられていたこと、

(ロ)  そして右会社は買受けにかかる伐木の受領、搬出等については業者との間で伐木運材事業委託契約を締結し、右業者をいわゆる受託者または生産実行者として右事業に当らせ、代金納付は処分庁である営林署から地方木材株式会社または前記連合会宛の納入告知書に基づきこれを右生産実行者らを通じて銀行に払込ませ、そのうえではじめて営林署から目的物件の引渡を受けるという仕組になっていたこと。

≪証拠判断省略≫

(二)  もっとも、≪証拠省略≫によれば右各取引において原告が現実に売買代金を日本銀行の支店に払込み、営林署職員から目的の各物件の引渡を受け、自らそれを処分している事実を認めることができるが、前記認定のような国有林払下げの取扱いおよび前掲各証拠に照らすと、原告の代金納付および搬出行為は結局買主である地方木材株式会社等の受託者または生産実行者として、買主の代金の代位弁済をなしかつ、買主に代って目的物件の引渡を受けたというにすぎず、また原告が搬出した木材を他に処分したという点も、それが一般の搬出委託請負の場合であるならば、当然買主の方が料金を原告に支払うべきところを、むしろ原告の方で五分程度の手数料を統制機関である買主に支払って木材の処分権を得ていたもの(結局、最寄駅渡の価格で原告が買取り簡易の引渡を受けた形となる。)と見るのが相当であって、これらの事実を以てしてはとうてい原告が右会社および連合会の買主たる地位を包括的に譲受けていたとまで断定することはできないし、まして被告がこのような譲受関係を承諾したものと推認することはむずかしく、ほかにはこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると原告の主張はこの点で理由がない。

(三)  加えるに、前掲各証拠によれば、前記売買契約はいわゆる山床処分として、予め鹿屋営林署職員によって杉立木の在積調査がなされ伐採玉切にした後、その数量、材積を調査して検知野帳が作成され、それに基づいて前記二に掲げた表の②ないし⑥欄に認定のとおり売買の目的物が定まり、しかも売買代金が石当りの単価を明示し、これに石数を乗じて算出されていたことが認められる。従ってこれは明らかに売買の目的物たる本件国有林の杉材の範囲が特定されたに止まらず、右数量および現物の存在を契約の主眼として取引が行われたものと認めるのが相当であって、いわゆる数量を指示してなされた特定物の売買であるというべきである。そうだとすると、本件において、たとえ原告に買主たる地位の譲受けがあったと見ても、それが特定物の売買である以上その数量に不足があったとしてももはや追完を求めることは許されず、この点からも原告の本訴請求は理由がないものといわねばならない。

四  よって原告の請求は右いずれの点から見ても理由がないから、その余の主張につきさらに判断するまでもなくこれを失当として棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本敏男 裁判官 吉野衛 松本昭彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例